教 室 |
梅雨も終盤の7月の初め。 近年よくある異常気象により、八月並の暑さだ。 その暑さに加えて梅雨の湿度があり、普通に立っているだけで汗が滲み出てくる。 今日は期末テスト1日目により、ほとんどの部活動が活動禁止である。 男子テニス部も例外ではない。 午前中のテストを終え、下校のチャイムが鳴る。 帰ってゆく生徒の中、海堂も下駄箱で靴を履き替えようとしていた。 そのとき、後ろから大声が聞こえた。 「じゃあな! マムシ!!」 同じテニス部の桃城だった。 海堂のことをマムシ、と呼ぶのは同じテニス部のレギュラーの中でも彼ぐらいだ。 殆どの者は海堂を恐れて喋ることさえあまりしない。 「マムシって呼ぶんじゃねぇ!」 海堂は桃城に負けじと大声で言った。 桃城は下駄箱から自分の靴を引きずり出す。 「別にいいじゃねーか……ってアレ乾先輩じゃね!?」 桃城の顔がパッと明るくなり、再び大声を出す。 「乾せんぱーい!!」 ブンブンと手を振ると乾は海堂と桃城の方へ歩いてきた。 「やぁ。海堂、桃」 クイッと慣れた感じで眼鏡をあげると、少し微笑んだ。 海堂は少し頭を下げる。 「……ッス」 「あれ? 乾先輩まだ帰らないんスかー?」 「あ、あぁ。少し担任の教師から頼まれごとがあってね」 「へーぇ。そんなの引き受けるなんて、先輩お人よしッスねー」 悪気なく桃城が言うと、「じゃ! ダチ待たせてるんで!」と笑顔で言って、乾と海堂を残して帰っていった。 桃城が見えなくなると、乾は口を開いた。 「あ、そうだ。海堂、新しいメニュー組んだんだけど……いる?」 「あ……ありがとうございます…」 「あ、でもな。今家にあるんだ。俺は今から教師にプリントを綴じてくれ、と言われていてな。悪いが今日欲しいなら、終わったら連絡するから。何時になるのかは分からないけどな」 乾はもう一度「すまないな」と言うと海堂の頭をぐりぐりと撫でた。 海堂はその手を払いのけた。 「何時に終わるかわかんないぐらい多いんスか…?プリント……」 「ああ。さっき見せて貰ったんだが、相当多かった。だから俺にも頼んだんだろうな」 「あ……え…っと、その……」 海堂は何かをボソボソという。 「ん? 海堂、どうした?」 「……手伝いますか?」 「へ?」 「いや、だから……俺、手伝いますか……?」 一旦帰ってからやるのもなんだし……と目線をそらして言う。 「でも悪いだろ?」 「じゃあ、いいッスよ。せいぜい一人で頑張ってください」 海堂はふいっと出口に方を向いて歩き出す。 乾は慌ててあとを追いかける。 「まて、まってくれ海堂。……是非手伝ってください」 「……ッス」 「視聴覚室だ。行こうか」 乾がそう言うと海堂は履き替えていた靴を再び下駄箱へしまい、少し黒くなった上靴に履き替えた。 下駄箱にはまだまだ沢山の生徒がいた。 海堂がおとなしく付いていっていると、前にいる乾に話し掛ける者も沢山居た。 仲の良さそうな男子も、全く共通点の無さそうな女も。 同級生も下級生も。 その度、海堂共々立ち止まっては言葉を返している。 海堂は前に一度乾に訊ねたことがあった。 「知っている人ですか?」と。 そのとき乾は、「いや、知らない」と答えた。 どうして知らない奴にわざわざ立ち止まって挨拶するのかも分からないし、何故自分に話し掛けてくるのか疑問に思ったりはしないのだろうか。 海堂はずっとそう思っていた。 視聴覚室に行くまでに何回立ち止まったことか。普通なら二,三分もかからずにいけるのに、実際のところ十分近くたった今でも視聴覚室に着いていない。 もう見えるとこまできた、というところでまた向かい側から海堂と同学年だと思われる女子が歩いてきた。 その女子は手で髪の毛をさっさと整えると、海堂たちとすれ違った。 その瞬間、彼女は大きく息を吸い込んだ。 「い、乾先輩! さようなら!」 精一杯の勇気を振り絞って、その女子は大声をだしたようだ。 声が震えていた。 乾は立ち止まり、振り返る。いつも通りの表情のない顔で、口元だけ笑った。 「さよなら」 それだけ言うと乾は再び歩き始める。 海堂が振り返ると、その女子は顔を真っ赤に染めて立ち尽くしていた。 口にあてた手までもが真っ赤になっている。 女子は、海堂が見ているのに気付くと、もっと顔を真っ赤にして走って階段を下りていった。 「どうした? 海堂」 去っていたあとを見ていると、不思議に思った乾が海堂に近づいた。 「いえ……」 海堂が慌てて振り返ると、乾はふふっと微笑んだ。 さっきまでの無表情とは違う。本当の微笑みだ。 「そうか」 乾はそう言うとまた歩き出した。 海堂も後に続いた。 視聴覚室のドアを開けると、中から酷くもわっとした空気が出てきた。 中に入ると、教師が用意したプリントが大量に重ねてあった。 風で飛ばないようになのか、窓は全くあいていない。 「暑い」 耐えかねて乾はポツリと言った。 海堂は走って窓の前まで行く。 「海堂? なにするんだ?」 海堂が何をしたいのかわからなかったのか、乾は訊ねた。 「窓、開けるんスよ……?」 どうしてそんなことを聞くんだ?という様に海堂が首をかしげる。 乾は自然と出てくる額の汗を右手で拭う。 「だが、海堂。窓を開けるとプリントが飛ぶだろう? 作業の効率が下がる確立は……」 「上になんか物置いたらいいんじゃないッスか……?」 「物を置いたらわざわざ退けてからプリントをとらないといけなくなるだろう?」 「ンなこと言ってられっか……」 海堂は乾の発言を無視してそのへんにあるそこそこ質量のあるものをトントンとプリントの束の上においていった。 乾はポカーンと見ているだけである。 窓を開けると、そこそこ風が入ってくる。 決してさわやかとはいえない風だが、梅雨の時期だから仕方がない。 「それで、どうしたらいいんスか?」 「あ、ああ。そこからそこまでを番号順に重ねてホッチキスでとめるらしい」 「…ッス」 「俺がプリント重ねるから、海堂はホッチキスでとめていってくれるか?」 「あ、はい」 海堂はその返事だけをすると、黙々と作業を始めた。 が、プリントを重ねる乾とホッチキスでとめるだけの海堂。 作業の時間に差が出るのは目に見えていた。 「……先輩。俺がそっちやったらダメッスか……?」 「? 何で?」 「そっちの方が大変そうじゃないッスか……」 海堂はふしゅうとため息を一つついた。 「そんなことない。海堂は手伝ってる側だろ? そこに座ってホッチキスでとめてくれるだけで十分だ」 乾が微笑んで言うと、海堂は目をそらした。 「……そッスか…」 そう呟くと、海堂は立ち上がった。 「じゃあ、俺ちょっと飲み物買ってきます」 「ああ、いいよ。その間にプリントためとくよ」 海堂は「よろしくお願いします」と言うと、鞄から財布を出し、視聴覚室を出た。 階段をカツカツと音を立てて下りていくと、自然と汗がタラリと流れる。 軽く汗を拭うと、シャツの胸元を掴みパタつかせながら、すぐ近くにある自動販売機まで歩いた。 今日はいつもよりかなり暑いためか、学校内の自動販売機の冷たい飲み物は殆ど売り切れになっていた。 仕方ないか…。と呟くと、海堂は近くのコンビニまで行くことにした。 視聴覚室に居て少し時間がたっただけなのに、下駄箱には殆ど人は居なかった。 靴のつま先をトントンと下に叩きつけて靴を履いて、歩き出す。 外は湿度も高いし、太陽は高い位置にあり気温も高い。 だらだらと流れてくる汗を海堂は腕でふくと、海堂は「あちぃ…」と声を漏らした。 学校から一番近いコンビニに着くと、他の菓子類などに目も向けず、海堂はまっすぐにジュース売り場の前へと歩いた。 乾のよく飲んでいる飲み物を思い出していると、横から声が聞こえた。 「あ、海堂じゃない」 海堂は驚いてそっちをみると、テニス部の先輩の不二周助が立っていた。 不二はいつものように、にこにこと笑顔を浮かべて海堂を少し見上げている。 「あ……ちわッス…」 「ねー、不二、不二ィ…って、あー!! 海堂!」 海堂が短く挨拶をすると、不二の後ろから大声が出た。 こちらも海堂と同じテニス部の先輩、菊丸英二だ。 「海堂が寄り道なんて珍しいじゃーん! なんか買いにきたのー?」 「……飲み物を買いに」 「へぇ」 「あ、そうだ海堂! 今から一緒に遊ばにゃい!?」 菊丸が海堂の方を抱いて言った。 「え……と…あの…すんません。乾先輩、視聴覚室で待ってるんで…」 「え? なんで? 乾なんかしてんの?」 菊丸は海堂に顔を近づけて聞いた。 「なんか担任に…」 「そういえば、乾が廊下で頼まれてたの見たよ」 海堂が言い終える前に不二は言った。 「そうだ! ねぇ不二! 乾んとこ行こうよ!」 菊丸は海堂から離れて不二の方へ駆け寄った。 不二は相変わらず微笑んで、言う。 「うん。そうしようか。どうせ暇だしね」 「ということで、カオルちゃんよろしくねー」 「……」 海堂はどうこたえていいのかわからないので、とりあえず乾が飲みそうな飲み物と自分の分をレジへと持っていった。 支払いを終え、海堂はコンビニ内を見回すが、学生が2,3人居るだけで不二と菊丸が見当たらなかった。 気分屋の二人なので、もうどこかへ行ったのかと思い、コンビニから出た。 むわっとした暑さが海堂を取り囲むと同時に横から飛び出してきた菊丸が大声をだした。 「さ! 海堂! 出発だにゃ!」 こう、暑いのにどうしてこんなに元気があるのかが海堂にはわからなかった。 妙に元気な菊丸と、汗がでているのかわからないほど爽やかにニコニコと笑う不二の後を海堂は歩いていた。 今更だが、海堂と乾は数ヶ月くらい前から付き合っている。 海堂は二人で居られる貴重な時間を大切にしたいのだ。 だから、不二と菊丸が一緒に来る事に気が進まなかった。 下駄箱につくと、菊丸がさっさと上靴に履き替え、早く早く、と二人を急かした。 「ふふ。英二ったら。そんなに急がなくても乾は逃げないと思うよ」 海堂はここにいるしね、とそう微笑みながら、不二は菊丸に続いた。 その後を海堂が小走りで追いかける。 階段をトントンと軽快に上る菊丸はどこか楽しそうだ。 視聴覚室の前に着くと、廊下の窓は先ほど海堂が開けたため全開だった。 涼しい風が入ってくるが、どこか生ぬるい感じがした。 海堂がそう感じ取った時、菊丸が大声で騒いだ。 「乾やっほー…って暑っ!!」 菊丸は視聴覚室へ足を踏み入れた途端廊下へ戻ってきて手で顔を扇ぎだした。 「どうしたの? 英二?」 不二が不思議に思い、菊丸のところへ駆け寄った。 「どうしたも何もないにゃー!!」 不二は視聴覚室に近寄り、覗き込むとすぐさま扉から離れた。 「……乾…なにしてるの…」 不二のその呟きを、今度は海堂が不思議に思って、視聴覚室を覗き込んだ。 海堂の目に飛び込んできたのは、黙々とプリントを重ね続ける乾と窓が全部締め切られたサウナ状態の視聴覚室だった。 「アンタ…」 視聴覚室に海堂が入ると、乾は顔を上げて海堂の方をみた。 「あ、海堂。おかえり」 顔を上げた乾の顔は少し青白くなっており、ぼぉっとしていた。 「おかえりって、あんた何してんだ!!」 海堂は大声で乾を叱りつけると視聴覚室の窓を全て開け始めた。 滅多に先輩に向かって大声を出すことのない海堂が乾に大声で、しかも怒った。 菊丸は海堂が何故怒ったのかがわからず、あたふたしていた。 「か、海堂? どうかしたのかにゃー…?」 菊丸がそう海堂にそーっと近づくと、海堂はバッと振り向くと大声で言った。 「そんなこと言ってる暇あったら窓開けてください!!」 「は、はいっ!」 振り向いた海堂の顔はいつもの2.5倍恐かった。 不二はボーっと乾に近寄り、頬を触った。 「海堂。乾の皮膚がすこし冷たくて気持ち悪い感じがする」 乾の状態を報告するかのように不二が海堂に言った。 海堂は窓が全開になったのを確認すると乾に駆け寄った。 「乾先輩、床でいいんで寝転んでください」 「え、なんで…?」 乾が正直に疑問を口にすると海堂は有無を言わさぬ様な凄い形相で乾を睨みつけた。 そうなると、乾は拒否することもできずに海堂の言う通りに横になった。 横になった乾の額を海堂は撫でると、鞄から教科書を取り出し、乾の足の下に置いた。 「ねぇ、カオルちゃん。コレは何してるのかにゃ……?」 菊丸が乾の近くにしゃがんで言った。 「英二、コレはね。たぶん熱射病にかかったときの応急処置だよ。足を高くするんだよね」 不二がそう言うと、海堂は不二の方をみてコクリと頷いた。 乾は「ふむ」と言うと、起き上がろうとした。 それを押さえつけるようにして海堂が拒む。 「海堂。残念ながら、俺は熱射病じゃない」 海堂を軽く睨むと乾は無理に起きようとした。 それを見た菊丸が海堂を一緒になって乾の手首を持って押さえ込む。 「ダメダメー!! 乾ってば顔ちょっと白いもん! 絶対日射病!」 大声で言うと、乾を押さえつける力はますます強くなった。 乾は顔を顰めた。 「……待ってくれ、本気で痛いんだが……」 菊丸の押さえつけている手首は少し白くなっていた。 「あー! ごめんごめん!」 慌てて手を離すと、海堂が抑えているにも関わらず、乾はムックリと体を起こした。 「せ、先輩!!」 乾をもう一度押さえつけようと海堂は力をこめようとするが、乾に手を掴まれて阻まれる。 つかまれた手を見て、海堂が乾を思い切り睨んだ。 その後ろでは、菊丸が「日射病! 日射病!」と連呼している。 乾はその二人の様子を見て、小さくため息をつくと「まったく…」と言って海堂の手を離した。 すると、今まで黙っていた不二がいきなり立ち上がる。 「不二?」 「乾は熱射病みたいだしね。僕が保健の先生を呼んできてあげる。行こう、英二」 そう言うと不二は菊丸の手を引っ張り、視聴覚室から消えていった。 段々遠くなっていく菊丸の声が教室に響く。 「乾先輩…。不二先輩も言ってたじゃないッスか。横になってください」 海堂は乾の肩を持ち力を入れる。 乾は観念したのか、「お前にはかなわないよ」と言うとゴロリと寝転んだ。 「実はさ、ちょっと頭がボーっとするんだ」 軽く笑う乾の声に腹が立ったのか海堂は元から低い声をまた少し低くして言った。 「……当たり前だ。この暑い時に窓全部締め切って作業なんかするからだろ」 「ははっ。返す言葉もないよ」 「……なんで…んな事したんだ…」 海堂は少し俯いた。 「風で、プリントが飛ぶんだよ」 「……」 「あれが鬱陶しくてね」 イライラするんだよ、と乾の言葉を聞いて海堂はふしゅうと息を吐いた。 「アンタなぁ……」 「あ、そういえば」 海堂が何かを言いかけたが、乾が言葉を遮る。 「アイツ、日射病って言ってたよな…」 「アイツ――…菊丸先輩ッスか…?」 海堂の指が乾の髪の毛に絡まり、動かす。 「うん」 乾は擽ったそうにするが、決して払ったりはしない。 「……言ってたッスね」 「絶対わかってないよな」 「……なにを」 「日射病と熱射病の違い」 「……そうっスね…」 海堂がそう言うと一旦会話は途切れたが、暫くすると乾が我慢できなくなったように小さく笑いはじめた。 クスクスと笑う乾に対して海堂は頭の上でハテナマークが飛んでいる。 「……なにがおかしいんスか」 海堂は自分にはわからない事で乾が笑っているのに腹が立っていた。 そんな海堂に気付いていないのか、乾はまだクスクスと笑っている。 「海堂、わざとやってるのか?」 乾はスッと乾の頭を触っている海堂の手に自分の手を重ねる。 海堂は一瞬なにを言われているのかわからなかった。 自分の手に重なっている手を見るとその意味に気付いたのか、バッと手をはずす。 「あ、酷いな」 まだクスクス笑っている乾の頭に海堂はチョップを入れる。 「馬鹿な事言うな」 「あ、海堂病人に酷い」 「元気じゃねぇか」 くだらない会話を続けているうちに、ふと時計を見ると不二と菊丸がでていってから相当時間がたっていた。 「戻ってこないな」 「ッスね」 「帰ろうか」 「プリントは」 「いい。俺に頼んだ先生が悪い」 海堂が立ち上がり、帰る準備を始める。 乾は未だ寝転んだままで、欠伸を一つした。 「ねぇ、海堂」 「なんスか」 ちらりとも乾のほうを向かず海堂が応える。 「さっき海堂が肩を掴んで俺を寝かしつけようとしただろ?」 乾は自分の左手で先ほど海堂につかまれた右肩を撫でた。 「……はい」 海堂はそのまま乾を見ずに帰る用意を続けている。 そんな海堂をじっと見て乾は続ける。 「その時な……されるかと思った」 そう乾が言った瞬間、海堂はバッと乾のほうに振り返った。 振り向くと、乾の顔は少し赤らんでいる様に海堂には見えた。 「……聞こえなかったんですけど…」 海堂がそう言うと乾は勢いをつけて上半身だけ起き上がった。 「だからな……」 乾はまっすぐ海堂を見ていた目を少し伏せて言った。 「キスされるかと思った」 それを自分で言って顔を赤らめていたのだ。 乾は目線を下に向けたまま、続ける。 「不二たちが居たことは分かってるんだが……」 帰る用意をやめ、海堂は乾のほうへ歩み寄る。 乾は驚いて海堂の顔に視線を戻す。 「海堂?」 「…先輩……」 ボソリと海堂は言うと、乾の両肩に両手を添えた。 じっと乾の目を見つめる。 「どうしたんだ……?」 乾が不思議そうに問うと、海堂は再び口を開いた。 「して……欲しいんスか……?」 「へ? 何を…?」 乾が間抜けな声を上げると、海堂はグイと乾の肩を掴み引き寄せた。 海堂の唇が乾の唇に重なった。 「うっわー! 俺初めて生ちゅー見た!」 「英二、声大きいよ」 「やっぱりカオルちゃんと乾は付き合ってたんだにゃー!」 「だから前にも言ったでしょ」 「さっすが不二ー!」 「うん。…………長い」 「へ?」 「長くない?」 「何がぁ?」 「アレ」 「……まだやってるよ…」 菊丸と不二の声が聞こえる中、海堂は全く乾を離そうとはせず、乾は海堂から離れようと必死だった。 ようやく海堂が乾を離すと、乾は勢いよく立ち上がり、扉の陰に隠れていつであろう菊丸と不二の元へ行く。 「お前らなにやってるんだ……!!」 「あ。バレてた? あんなにずっとしてたから気付いてないと思ってたよ」 不二が面白そうにこたえると、乾はその言葉で顔を赤くした。 菊丸はその顔を見ると、にゃはは、と笑った。 「あれは海堂が……!!」 乾が必死で言い訳しようとしたら、海堂が乾の後ろからにょっと現れた。 「俺が何スか」 「うわっ!!」 行き成り聞こえた海堂の声に乾は驚い、ビクリとした。 その乾を見て、海堂は我慢できなくなったのか、後ろから乾に抱きついた。 「な、なにするんだ海堂!」 「……」 海堂が黙ったままで不二と菊丸をじっと見ていると、その意味を理解したのか、不二が言った。 「英二。帰ろうか」 「うん。お邪魔みたいだしにゃー」 「じゃあね、乾、海堂」 「また明日ー!!」 それだけ言うと、二人は階段を下りていった……と思ったが、不二がひょいと顔を出して言った。 「ほどほどにね、海堂」 「不二!!」 乾がそう言った次の瞬間には不二の姿はどこにもなかった。 海堂がぎゅっと後ろから乾に抱きついたまま、しばらく二人は黙っていたが、乾が口を開いた。 「海堂」 「はい」 「いつまでこうしてるんだ?」 「……」 「というか、なんでこうなってるんだ」 「……アンタが」 「俺が?」 「可愛いから」 海堂がそう言うと、いったんキョトンとしてから乾の顔が真っ赤に染まった。頬だけでなく、耳までもが。 そんな乾を見て海堂は片手を離すと乾の耳をスッと指でなぞった。 乾の背筋に何かが走る。 「んっ! か、海堂! やめろって!」 海堂に乾の顔は見えないが、真っ赤になった耳を見て、顔はそれ以上に赤くなっているであろうことを予想した。 海堂は耳に口を寄せ、甘噛みして言った。 「アンタすげぇ可愛い」 それだけ言うと乾の体は開放される。 乾が振り向くとそこには海堂の姿はない。 視聴覚室を覗くと、海堂が丁度、乾の分の荷物ももって出てこようとしたところだった。 乾に海堂から荷物が手渡される。 「あ、すまない」 さっきまでの雰囲気とは違って、海堂はいつもの海堂に戻っていた。 拍子抜けした乾は前を歩く海堂の後ろを三歩ほどあけて黙ってついていく。 海堂が階段をおりると乾も三歩分遅れておりる。 海堂が角をまがると乾も三歩分遅れてまがる。 乾が曲がりきると海堂がぐっと片腕で乾の胸倉をつかんで耳に口を寄せた。 「帰ったら続き、ヤらせろ」 そう言うと海堂は乾から手を離し、また歩き出す。 早々に離れるところから、海堂も少なからず照れているのだろう、と乾は思い、少しばかり嬉しくなる。 顔を真っ赤にしながらも小さく微笑むと海堂の後を追いかけた。 |
AppLe炭酸水の秋水さんより、相互リンク記念に素敵なSSを頂きました! 「海乾」で、「熱射病」というリクをさせて頂いたのですが…。お、おおおおおおおお…!!!! 海 乾 、 萌 え ーーー ! ! ! びっくりしました。海乾、萌えちゃった…!きゃ!もちろん、秋水さんの海乾には 以前からドキドキさせてもらっていたのですが、もう、このSSは格別にツボ押し効果バツグンです! 思わず勝手ながら、挿絵を添えさせて頂きました…邪魔だよ!と思った方すみません。 秋水さん、本当にありがとうございました!!家宝にさせて頂きます…! |