ノートを取り出そうと机の引き出しに手をかける。
あれ待てよ、あのノートは棚に立てておいたんだったかな。それとも鞄に入れっぱなしか。
いや、違う。そうだ、やっぱりこの引き出しだ。
引き出しの中には目当てのノート。
そして、思いがけず『それ』と目が合う。




   迷いと余威




「どーしたんスか」
「ど、どーもしないよ」
俺はそう答えてノートと一緒に、その脇に転がっていた小瓶を取り出す。
拳の中に隠れるほどの大きさで、茶色いガラスの瓶の中にはほんの少しの液体。
ガラスの色のせいで液体の色はわからない。その瓶の見た目はアロマオイルとか、そんなものに似ている気がする。
床に広げた資料を眺めていた海堂は、俺に視線を向けている。というか、睨んでいるようにも見える。
「固まってたっスよ。引き出し開ける前と、開けた後」
そうかな、と答えた言葉に心はなく、机の引き出しを後ろ手に閉め、手の中の小瓶を海堂に見つからないようにポケットへ。
僅かに膨らんだポケットを腕で巧みに隠しながら、資料をはさんで海堂の正面に座った。
「本当に引き出しに入れたかな、と考えてたんだよ。ノート」
今までの試合結果をまとめていたそのノートを開いて、海堂に渡す。
「んなこと考えなくたって開けてみりゃ分かるじゃないスか」
受け取ったノートは見ずにそう言った海堂はどうも呆れているらしい。何故だろう。
「開けてみて、ノートがなかったらどうだ?期待を裏切られるのが嫌なんだよ。その前に他の可能性を考えて、でもさっきの俺は
『ノートは引き出しの中にある』と確信して引き出しを開け…」
「だからそうやってアレコレ考えてる時間が無駄だっつってるんスよ。さっさと引き出し開けて、なかったらなかったで他のとこ探しゃあ
いいじゃねぇスか。いっつもそうなんだよな、アンタ」
「いや、誤解しているな、海堂。俺が言ってるのは時間の話じゃない。期待とその結果がもたらす緊張と弛緩の話だよ」
「…もういいっス。それより」
「いや聞いてくれ。この場合の期待というのは図式的なものじゃなくて記憶によるものなんだ。ああ、その前に説明しておかなきゃい
けないことがある。この二種類のシステムの存在が示唆しているのは…」
バンッと、海堂がノートを床に叩きつける。その音に驚いた俺は反射的に口をつぐんだ。
「もういいっス」
いつもに増して低い声が部屋に響く。鋭い目が俺を睨み上げる。……怖い。
そういえば、前にも同じようなことがあった。
俺には『とりあえずやってみる』という感覚がない。逆に、海堂はそのタイプらしい。
「ゴチャゴチャ迷ってねぇでやってみりゃいいじゃないスか」。海堂の口から何度聞いたか分からないセリフだ。
俺から言わせてもらえば、迷っているんじゃなくて検討しているんだが。
ともかく、場を包む気まずさに姿勢を正す。と、指がポケットの、例の小瓶の膨らみに触れた。



3日前、放課後、部活の前。
面白いものがあるんだけど、そう言っていつも通り笑みを浮かべる不二。
彼が笑顔のまま無言で差し出した小瓶を訳の分からないまま受け取り、しばしそれを見つめる。
「不二、これは…」
「媚薬」
ニッコリと即答する不二は、その言葉を聞いて小瓶を取り落としそうになった俺に人差し指を立てて続けた。
「乾にプレゼント。ああ、大丈夫だよ、危ない薬とかじゃないから」
手の上の小瓶と不二の顔を何度も見比べる。
危ない薬じゃないって?媚薬と銘打ってる時点で充分真っ当じゃない。
「アロマとかハーブとか、そういう類のものだから大丈夫だよ。その分、劇的な効果もないと思うんだけど」
劇的な効果があったらそれは劇薬だろう、と言いたくなるのを押さえて、俺は聞くことにする。
「で…これを俺にどうしろっていうんだ?」
「ふふ」
口元に手をやり、微笑みながら俺に一歩近づく。
「分かってるくせに」
いつもの通の笑み。しかし、目が笑っていない。
「感想、待ってるよ」
その穏やかな声を聞きながら、俺はただその小瓶を見つめるしかなかなかった。



ノートをパラパラとめくっている海堂に意識を戻す。
いちおう恋人と呼ばれる関係。キスもセックスもする。ただ、一方的に求めているという気もしている。
海堂も何だかんだ言って拒むことはないが、俺ばかりが必死になっているような。
たまには積極的になってほしいと思ったこともある。
……媚薬、か。
…「ごちゃごちゃ迷ってないでやってみろ」…海堂のセリフまで再生される。
いやいや、こんな怪しくて危ないもの使えるわけないだろう、と心の中でかぶりを振る。
それに、きっとこの手のものは本人の「飲んだから効果があるはずだ」という心理も少なからず作用するはずだ。
きっと海堂はそういう類の暗示にかかりやすい気質…。
「海堂、これ媚薬なんだけど飲んでみないか?」。言えるわけないだろう。そして飲むわけないだろう。
いや、そういう問題じゃなかった。
この得体の知れない液体が無害かどうかも怪しいんだ。こんなもの飲ませられるか。
と、海堂の脇に置かれた空のグラスが目に入る。麦茶が入っていたものだ。
思いついた。海堂にノーリスクで媚薬を『飲ませる』方法。
海堂の手からノートを取り上げ、無言でキスをするとそのまま床に押し倒す。
「なんスか、突然」
抵抗はしないが不機嫌そうな声で聞いてくる海堂に笑んで見せる。演技力には自信がある。
「いや、そろそろ効いてきたかなと思って」
「なんの話っスか」と、海堂が眉根を寄せる。
「媚薬って、知ってるだろ?」
暗示と、心理作用。つまり…、
「さっき飲んだ麦茶に入れてみたんだ」
実際にはそんな事実はないが、人間の思い込みには絶大なパワーがあるらしい。
ある人間に真っ赤に焼けた鉄を見せる。それから目隠しをさせて、他に用意しておいた普通の鉄を肌に押し付ける。
すると、焼けた鉄を押し付けられたと思ったその人間は悲鳴をあげ、肌には火傷すらできたという。
そんな話を思い出した。
「かなり強力な薬なんだが……どうだ?」



俺がその下半身に触れたとき、海堂は身をよじって声を上げた。
気のせいか、いつもより敏感な気がする。
「あ…先輩っ…」
紅潮した顔と潤んだ瞳、唇が時々震えて声が洩れる。
何か耐えるように時折腰を浮かせてみたり、床に擦りつけるように小さく動かしたりする。
「ん…う…」
その姿にぞくぞくと背筋に快感が走り、俺は自分でも知らないうちに笑みを浮かべていた。
どうやら飲んでもいない媚薬の効果があったらしい。
下着の中に手を入れて海堂のそれに触れる。
もうすっかり硬くなった性器に指を這わせると海堂は耐え切れなくなったように俺の名前を呼び、襟元に手を伸ばしてきた。
細く長い指がシャツを掴む。
海堂の体は熱く、首筋には僅かに汗が滲み、その熱を放出しようと吐息が細く短く洩れる。
今、その下半身の奥に指を滑り込ませたらどんな声を上げるだろう。
そう思い、性器への愛撫を止めて下着を引き下ろす。



「うわっ!?」
次の瞬間、思わず声を上げたのは俺の方だった。
俺は海堂に襟元を掴まれて、そのまま力いっぱい引き倒されたのだ。
床に押し付けられ、海堂が俺の上に覆いかぶさってくる。
先ほどと逆の体勢になると海堂が荒い呼吸を抑えもせずに言う。
「先輩…入れさせてください…」
潤んだ大きな目が俺を見下ろしている。
「な、何っ!?」
「その…薬のせいかもしれねぇ…もう、俺っ…!」
「うわっ!ちょっと待て、海堂っ!」
「先輩っ!!」
「ま、待て海堂っ!違う、あれはっ、違…ああーっ!」




明くる日、乾から手つかずのままの小瓶を無言で返された不二は、ただただ首をひねるのだった。









ものすごーくお待たせしてしまったわりにはこんなんです。
いつもの事ですが。申し訳ない。



男が媚薬飲んだら普通はこうなるんじゃないかな、と。
それだけの話です。乾が可哀相。
リクは「エロコメ」…。



エロ的にもコメ的にも微妙です。
しかも桃海のときとあまりオチが変わらないんだ。



もう…ほんとすみません…。
ぷた子さま、許して…。



それから、大好きです…。
って話そらしてもダメですか。そうですか。



というわけで、ぷた子さまに献上いたします。
ごめんなさい、ごめんなさい…。






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もとき様の素敵サイト・「高速道路の猫」様の44444HITを踏ん付けてしまい、
調子こいて乾海SSを頂きました!


ああ、もとき様!!


突然ですが大好きです!!!!
(そんな突然でもないですか。いつも言ってますね私。)




「媚薬」と「海乾」


実はぷた子、
偶然にもこの2つ、今かなりツボなMOE要素なのです。
本当に偶然なんですよ。リクは「エロコメ」としか言っていませんでしたから。



すごいです。もとき様には本気で運命感じます。
キモイですか。危ない人ですか。
何と言われようと乾海サイト界の中心で愛を叫びます。
もとき様が大好きだ…!!





…こんなコメントをくっ付けてしまってこちらこそ申し訳ないです。


もうほんとにほんとにありがとうございました
そしてもとき様にはもう一本、キリリクをお願いしているのですよ。
次は…ふふ。


もとき様、あの合言葉をお忘れなく…ぷた子も「青の箱」の中で頑張ります。
いつまででもお待ちしておりますので!





それでは、最後の方は私信(しかも脅迫まがい)となりましたが、
もとき様、本当にありがとうございました!

ぷた子はものっそ幸せです…!!